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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第11章 海賊と昼食を
「…いいの?船…」
暁は戸惑いながら、甲板に腰を下ろした。
…漁船は月城の城のようなものだ。
今まで暁は月城の船に数えるほどしか乗ったことはない。
…なんとなく、月城の領分に立ち入るようで遠慮していたのだ。
「もちろん。
狭いですし、豪華客船とはいきませんが、どうぞご自由にお寛ぎください」
月城がウィンクし、舵を握った。
船は緩やかに船首の向きを変え、港を離れてゆく…。
暁は大きな黒い瞳を見開いた。
「ねえ、もしかして…」
「ええ。今日は波も穏やかですし、少しセーリングといきましょうか?」
「…わあ…!」
暁は歓声を上げた。
「…ランチ営業は休まれたのでしょう?」
月城の声に可笑しみが漂う。
「どうしてわかったの?」
驚く暁に、月城が視線で指し示す。
「…お弁当…。持って来てくださったのでしょう?」
「…あ…」
暁は恥じらうように、バスケットを撫でた。
「…月城と…海辺でお昼、食べたいな…て…。
最近、お休み取ってなかったし…。
…ごめんね、勝手に…」
月城が静かに首を振る。
「私の方こそ…。先に気付くべきでした。
貴方にお休みを差し上げるべきだったのに…」
ブロンズ色の大きな手が、潮風に靡く暁の髪を優しく撫でる。
…その手はかつて日本で執事をしていた頃のようにきめ細やかでも柔らかでもない。
潮風や太陽に晒され、かさかさと乾燥し、ざらついてさえいる。
けれど、暁にとっては世界で一番美しく愛おしい手であった。
「ううん…。僕は月城と一緒にいられたらそれで幸せなんだ。
だから、毎日一緒に働けて本当に嬉しい。
こんなに幸せでいいのかな…ていつも思っている…」
男が切なげに深いため息を吐く。
「…貴方は相変わらず欲がない…。
私はいつも貴方に何をして差し上げたらいいか、そればかり考えているというのに…」
白い手を男の引き締まったブロンズ色の頰に伸ばす。
「…何もいらないんだ…。
君以外は…」
射干玉色の瞳を細める暁の口唇を、月城は情熱的に奪い、愛を込めて囁いた。
「…これ以上、私を骨抜きにしてどうされるおつもりですか…?」
暁は絹のように艶やかに微笑った。
「…じゃあ…もっともっと…僕を愛してくれ…」
暁は戸惑いながら、甲板に腰を下ろした。
…漁船は月城の城のようなものだ。
今まで暁は月城の船に数えるほどしか乗ったことはない。
…なんとなく、月城の領分に立ち入るようで遠慮していたのだ。
「もちろん。
狭いですし、豪華客船とはいきませんが、どうぞご自由にお寛ぎください」
月城がウィンクし、舵を握った。
船は緩やかに船首の向きを変え、港を離れてゆく…。
暁は大きな黒い瞳を見開いた。
「ねえ、もしかして…」
「ええ。今日は波も穏やかですし、少しセーリングといきましょうか?」
「…わあ…!」
暁は歓声を上げた。
「…ランチ営業は休まれたのでしょう?」
月城の声に可笑しみが漂う。
「どうしてわかったの?」
驚く暁に、月城が視線で指し示す。
「…お弁当…。持って来てくださったのでしょう?」
「…あ…」
暁は恥じらうように、バスケットを撫でた。
「…月城と…海辺でお昼、食べたいな…て…。
最近、お休み取ってなかったし…。
…ごめんね、勝手に…」
月城が静かに首を振る。
「私の方こそ…。先に気付くべきでした。
貴方にお休みを差し上げるべきだったのに…」
ブロンズ色の大きな手が、潮風に靡く暁の髪を優しく撫でる。
…その手はかつて日本で執事をしていた頃のようにきめ細やかでも柔らかでもない。
潮風や太陽に晒され、かさかさと乾燥し、ざらついてさえいる。
けれど、暁にとっては世界で一番美しく愛おしい手であった。
「ううん…。僕は月城と一緒にいられたらそれで幸せなんだ。
だから、毎日一緒に働けて本当に嬉しい。
こんなに幸せでいいのかな…ていつも思っている…」
男が切なげに深いため息を吐く。
「…貴方は相変わらず欲がない…。
私はいつも貴方に何をして差し上げたらいいか、そればかり考えているというのに…」
白い手を男の引き締まったブロンズ色の頰に伸ばす。
「…何もいらないんだ…。
君以外は…」
射干玉色の瞳を細める暁の口唇を、月城は情熱的に奪い、愛を込めて囁いた。
「…これ以上、私を骨抜きにしてどうされるおつもりですか…?」
暁は絹のように艶やかに微笑った。
「…じゃあ…もっともっと…僕を愛してくれ…」