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夜ごと疚しい夢を見る(「初めて女を~」ピックアップ御礼)
第1章 夜ごと疚しい夢を見る

「はい?」

 寝台に腰掛けて奥様からお借りした本を読んでいたビスカスは、扉を叩く音に返事をしました。
 明日も、学校が有ります。そろそろ、灯りを消して眠ろうかと思っておりました。
 返事をしても何の反応も無いため、ビスカスは寝台から下りて扉を開けました。

「ビスカス……?」
「リュリュ?どうしたんですか?」

 扉を開けると、生まれる前からーー奥様のお腹の中にいらした時からお仕えしている何より大事なお嬢様である、ローゼルが立っておりました。

「雷が、鳴ってるの……」
「ああ……そう言やあ」

 今日は夕方から雲が厚く、夜になって雨が降り出しておりました。耳を澄ますと、遠くで雷か鳴っている様にも感じます。
 音がするたびに抱えた枕をびくっと抱き締めるローゼルの目には、涙が浮かんでおりました。

「寝れないの。一緒に寝ていい?」
「お母様は、どうなさったんで」
「目が覚めたら、お母様、いらっしゃらなかったの……」

 ああそうか、とビスカスは顔を赤らめました。
 今日の午後まで、領主様は遠出をされておりました。お嬢様を寝かしつけた後、久し振りに夫婦水入らずで夜をお過ごしなのかもしれません。
 心細げなローゼルを、放り出す訳には行きません。ビスカスは内心で溜め息を吐きながら、扉を大きく開きました。

「どうぞ。狭い部屋ですが」
「広くたって一人しか使わないんだから、狭くたって別に良いじゃない。お前の部屋、好きよ」

 ローゼルは嬉しげに部屋に入ると、持ってきた枕を寝台の上に据えました。そして部屋の主が横たわるのを待たずに布団をはぐってさっさと寝台に陣取ると、はしゃいだ声を上げました。

「早く早く!ビスカスは、こっちね!」
「……畏まりました、お嬢様」

 ビスカスは、苦笑しました。
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