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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第3章 たもつ
だとしたら、キスからはじめられなかったことを後悔している場合ではない。キスをきっかけにして、少しでも心を開いてもらえるように、そう考えるべきではないか。
寝不足のせいか、今は考えがまとまりそうもなかった。
家に帰る。父は既に会社に出勤してる時間だけど、母は家にいるようだった。顔を合わせることなく二階に上がっていこうとすると、背中から呼び止められた。
「均、今日はいつもより遅いのね」
「うん、ちょっと用事があったから」
「もうすぐお昼だけど、ご飯食べる?」
「いらない。眠いんだ」
さっさと会話を終わらせ、そのまま部屋に逃げ込もうとする。聞きたくない言葉が飛んできそうだという、その予感は正しかった。
「普通の人たちなら働いてる時間だね。均は、いつまでそうしているのかしら?」
部屋のドアを閉じる前に、母親の言葉はしっかりと耳に届いていた。
「普通じゃなきゃ、駄目なの?」
小声でぽつりと呟く。
それが自分の本心じゃなくって、子供じみた反感から出た言葉であることは、わかりきっていた。
ベッドに倒れて、そのまま崩れ落ちるように眠る。