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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第3章 たもつ
僕がなにを伝えたかったかというと、現在の日付が『二月十五日』であるということ。
すなわち、役割を全うすることなく売れ残ったチョコたちは、朝までに『半額』と明記されたワゴンにぶち込まれる予定なのだ(それも、僕ら深夜組の仕事)。
そんなものを今、美里さんに定価で買わせるのは気が引けてしまう。
「いいの、いいの。気にしないで」
「わかりました。では――」
そっか。今から渡す相手に会うってこともあるよね。僕は漠然とそんな風に考えて、缶コーヒーとチョコを速やかにレジに通した。
ん、待てよ。それなら岬ちゃんと過ごした朝は、バレンタイン当日? ――ってことだよなぁ。
その事実を確認するにつけ、また軽くヘコむ。あの岬ちゃんがチョコをくれるなんて最初から思ってなかったから、失念したまま日にちが過ぎていたわけだけども……。
それにしたって普通の恋人同士に比べ、あまりにも隔たりを感じてしまったのだ。
はあ――と、軽くため息をついた、その時だった。
「はい。どうぞ」
「え?」
「コレあげるね」
美里さんは今、自分で購入したばかりのチョコを、僕に向かって差し出している。
「ど、どうして……僕に?」
差し出されたチョコの箱と、美里さんの眩しい笑顔を見比べながら、僕はその意図を問うのだけど。
「一日遅れのチョコなんか、いらない?」
「い、いえ……」
「じゃあ、どうぞ」
僕はこうして、美里さんからの予期せぬチョコを受け取るのだった。