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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第3章  たもつ 


 別にどこに向かうということもない。アパートを離れると、最初はあまり人気のない住宅街の通りを進む。それから駅前へ近づくと、自然と人の姿が増えていった。

 すると、特に若い男の人の視線が、こっちに向いてくるのを感じる。当然だけど僕にではなく、隣の岬ちゃんのことを見ているのだ。

 当然だけど〝ドテモン〟の時とは全く別の理由で、注目されてる。そのくらい今の岬ちゃんが、魅力を発しているということだけど……。

「岬ちゃん、平気?」

「は……はい」

 なんとか返事をしていたけど、岬ちゃんはぴたりと僕に身体を寄せ、並んで歩くというより背中に隠れる感じだ。そうしながらも繋いだ手が、しっとりと汗ばんでいることに気づく。

 人の視線を気にしているのは、明白だった。

「そろそろ、帰ろうか」

「いえ……まだ、大丈夫です」

「だけど……」

 行き交う人々の波を前に彼女は最早、僕にしがみつくと、立っているのもやっとという感じで、はあはあと息をしている。

 彼女は彼女なりに、殻に閉じこもった現在の状況を打開しようとしているのかもしれない。それなら協力したいのは山々だけど、あまり一度に無理をさせたくないと感じた。

「じゃあ、こっちへ」

 岬ちゃんの手を引き、人の目を逃れると、僕たちはレストランの中に入った。

「た、均くん……?」

「七時くらいになるし、ご飯でも食べていこうよ」

「で、でも……」

「大丈夫。みんな食事にきてるお客だから、他人のことなんか気にしてないよ。食事を済ませたら、すぐにアパートに戻ろう」

 それだけできれば、今日のところは十分だろう。こうして少しずつでも、岬ちゃんが前に進むことができればと、そう考えていた。

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