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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第3章 たもつ
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ありふれたファミレスの店内は、ちょうど夕食時ということもあって、適度に込み合っていた。
少し待って案内されたのは、一番奥まったボックス席。ホールの中ほどのテーブル席に比べれば人目を避けられる分、落ち着けそうな雰囲気だった。
「岬ちゃん、いい?」
こくり、と頷いた岬ちゃんは、ゆっくりとした動作で席に座ると周囲を見渡した。満席に近い店の中は、お客たちの話し声が反響しガヤガヤとしている。
そんなことに、気後れしたのだろうか。
「どうしたの?」
「あ……うぅ……」
岬ちゃんはテーブルの上の僕の手を握り締め、苦しそうに項垂れてしまった。
「み、岬ちゃん。もし、無理なら――!?」
心配してそう言いかけると、きゅうっと手を強く握られる。
「だ、大丈夫です……」
「だけど」
「わたし、均くんだけを、見ます。だから……」
ゆっくりと顔を上げ、微かに微笑んでみせる。でも、お世辞にもいい顔色とは言えなかった。
僕はまだ彼女の事情を、簡単に考えすぎていたのではないか。人がなんの気なしにできることを、彼女は困難だと感じているのだ。
あの部屋から一歩踏み出すのに、どれほどの勇気を振り絞っているのか、僕は想像したことがなかった。
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