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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章 山本均
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「うーん……確かこっちに走っていったんじゃ?」
コンビニのある表通りを五十メートルほど走り、弱い街灯の元で立ち止まると辺りを見渡す。すぐに後を追うつもりだったけど、用意に手間取った分、彼女の後ろ姿を見失ってしまったようだ。
そのまま息を整えながら、暫く辺りを窺っていると。
ニャア、とひと鳴きあり。子猫が細い路地から飛び出してきた、その直後のことだ。
「ひいっ……!」
という細い悲鳴を耳にする。猫の出てきた路地を見ると、電柱の影で人影が震えているのがわかった。
その人影は精一杯に身を隠そうと地面に体育座りをして、きゅっと強く両足を抱え込んでいる。
「あの――」
近づき声をかけると、彼女はびくりと身体を揺らした。
「ご、ごっ……ごめんなさい!」
さっきと同じドテモンさんの声だ。それを聞いた僕は、ほっと胸を撫で下ろす。
「謝るのは、こちらですから」
「え?」
不思議そうに見上げた彼女に、僕は手にしていたものを差し出した。
「わすれものですよ」
「わ、す……れ?」
自分の購入した品物の入ったレジ袋を目の前にして、彼女がきょとんとした様子が帽子やマスク越しにも伝わった。
追おうとする寸前に急ぎそれを用意した分、彼女を見失うところだった。だけど、なんとか無事に手渡すことができそう。
「さっきはバイトの同僚が、すみませんでした。もちろんお釣りもお渡しいたしますので、明るいところでご確認くださいね」
店で接客する時と同じ感じで、僕は自然と笑いかけた。
彼女は電柱の影からゆっくり立ち上がり、ふらふらとしながら僕の前に立つ。そして、レジ袋を受け取るより先に、なぜか顔を覆ったマスクや眼鏡を取り去ってしまった。
「――!?」
街灯が微かに届く路地で、僕は期せずして初めてドテモンさんの素顔を目撃したのである。
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