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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第5章 均
「ちょ、ちょっと――や、やめてください」
美里さんは怯えたように、その手から逃れようとする。
僕が抱いた彼女のイメージだと、もっと毅然と一蹴しそうに思うのだけど、酔って立ってるのもやっとのせいか、今の美里さんの態度はとても弱々しく映った。
もちろん、悪いのは男性客の方だ。
「申し訳ありませんが、店内でのナンパ行為はお控えください」
こんなトラブル時に、どう対処すべきか。流石にマニュアルにも、そこまで詳しく書いてあるわけじゃない。当然、絡まれて困っている美里さんをほっておけない。僕だって必死だった。
「んー?」
男性客は徐に僕の方を振り返ると、その口元になんとも嫌な笑みを携えた。少しくせのある長髪の茶髪をかき上げ、浅黒い顔で僕を見下ろす。ゆうに180を超える長身だ。
全体的に、どこかチャラチャラとした印象を漂わせている。
「こっちの邪魔をする前に、ちゃんと自分の仕事をやったのかい?」
そう言われた僕は、背後のレジを差して言った。
「お客様の会計でしたら、すでに終わっております」
「だからぁ、ちょっと待ってくれって。今、こっちの彼女と大事なお話の最中で――」
「そちらの女性でしたら、お困りの様子とお見受けします。もし、これ以上のトラブルに発展させるおつもりなら、警察に通報することになりますが」
やや冷ややかに告げると、男性客は一瞬だけ不快そうに眉根をひそめてから「ふうん」といった感じで僕の方を睨み、その後で。
「ハハハ、わかったよ。じゃあ、お嬢さん。もし興味があったら、こちらへ」
そう言って笑い、美里さんに名刺のようなものを渡すと、レジの上の商品とカードを持って、そのまま店を後にした。