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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第5章 均
「どうかしたの?」
気がつけば既にエレベーターを降り、とあるドアの前にいる。自らの部屋の扉を開きながら、ようやく美里さんが言葉を発していた。
「いえ……なんでも」
咄嗟に視線をそらし、ドアの隙間のまだ闇の部分を見つめながら、なんとも曖昧に答えた。
すると美里さんは、更に明確な問いを僕の方に投げかけてくる。
「部屋に入るの――やめとく?」
はっとして、目を合わせた。
でも美里さんの眼差しには、優柔不断な僕を咎めるような光はなくって。それどころか、まるでなにかにすがるような、そんな弱々しさを宿しているかのようだ。
「……入りたくない?」
更に弱々しく、そう言い換えた。
その瞳を見た時に、僕は心を決めたのだろう。
だから――
「入りたいです――美里さんの部屋」
たぶん美里さんを抱くために、そう言っていた。