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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第5章 均
そうなれば、後は迷わずにいられる。
それまで散漫に周囲を眺めていた僕は、少しお酒に酔った魅惑的な女性だけを見つめればよかった。今は確かに、そうしたかった。
どうして、今夜なのだろうとは正直思っている。もう少し時間をかけた方が、いいのではないかと。
はじめて食事をして、特別に会話が弾んだわけでも、意気投合する雰囲気になったわけでもない。くる前は食事に誘われたことさえ、訝しく感じていたくらいだ。
なんで美里さんは、僕なんかに興味を抱いたのか。その答えが導けない内は、異性として意識することすら、おこがましいと感じていたのに……。
だけど部屋の前にきて、空間を共にしようと誘う、美里さんの顔を見た時に、もうそんな気持ちは、どうでもいいことになった。
エントランスを通り抜ける時も、エレベーターの中で二人きりになった時も、明らかに迷っていたくせして。
「……入りたくない?」
小刻みに瞳を揺らしながら、それまで抱いていたイメージと明らかに違う自信の欠片も感じさせない、その怯えた少女のような顔を見た時に、僕は思ったのだ。
美里さんだって、支えを必要としているのではないか、と。
もしかしたら、それは一夜限りかもしれない。もしかしたら、そうではないのかもしれない。先のことは、わからないけど。
確かに今ここにいる僕は、男として彼女に必要とされたのだと思った。
だから、ドアが閉じられるなり。
「――ん」
どちらからともなく、激しく唇をぶつけ合ったのも、必然であることを疑わない。