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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第5章 均
ドアを開けるなりキスから始まって半裸となってもつれあった割に、狭いソファーの上では動きにくさのためか、明らかに手をこまねいている感じだ。
まあ、僕がぎこちないのは当たり前なのだけど、それにしても……。
「み、美里さん……?」
「ごめんね」
「いえ……」
美里さんは少しバツが悪そうに、髪をかきあげて横顔を見せた。
「ねえ、ベッドに行こうか」
「あの、やっぱり今夜はやめ――」
美里さんの様子を前に、高まった自分の衝動を諫めようとした時だ。
「大丈夫だって、言ってるじゃない!」
美里さんは僕の前で、はじめて苛立った感情をみせた。だけど、すぐにはっとして、「ごめんなさい」といった後で、こう続ける。
「……最近さ、いろいろと疲れちゃって、少しだけね」
「なにか、あったんですか?」
「そうじゃなくて。今までの自分を変えたい――変わりたいって、そう思うから」
「変わりたい? 美里さんでも、そんな風に思うんですか?」
「うん。思うよ」
そう言って、にっこりと笑みを向けた美里さんは、とても魅力的に思えたから。僕が常々抱いている「変わりたい」という欲求。それと同じものを内在させているようには、どうしても思えなかった。
僕からみれば全ての面で満ち足りているような美里さんから、その言葉を聞いたのはとても意外なこと。
「だからお願い。キミに手伝ってほしい」
懇願するように、そう言われた僕は、少し悩みながら聞く。
「僕で、いいんですか?」
卑屈に思われそうなその言葉を微笑で受け入れ、美里さんは優しく唇を重ねた後で耳元にささやく。
「キミじゃなくちゃ、嫌だ」
その言葉が、僕の衝動に歯止めをかけるものを打ち砕いていた。