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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章  山本均 


 入店音を耳にして、僕と先輩が声をそろえた。もしかしたらと、どてら姿を想起した分、僕の声が強張っている。

 来店したのは、岬ちゃんではなかった。

 そのお客は、ちょっと目を見張るくらいの美女。淡く上品な色のチェスターコートの裾をひらりとなびかせ、ヒールの高いショートブーツで床をコツコツと小気味よく鳴らす。脚がすらりと長い。

 およそ暇な深夜のコンビニに似つかわしくない、その立ち姿に素早く反応したのは先輩の方だった。

「美里さん!」

 どうやら二人は知り合いのよう。雑誌コーナーで作業していた僕たちのところにくると、その美女が先輩と気軽な雰囲気で話し始めていた。

 先輩は(ああみえて)地元屈指の国立大学に在籍中(たしか二年)である。その先輩が「美里さん」と呼んだ彼女の方も、どうやら同じ大学の先輩ということのようだ。

 二人は「コンパ」だとか「サークル」だとか、僕には縁のない会話に花を咲かせる。

「それにしても意外だね。木村くんは、もっとチャラチャラしてるイメージだったもの。こんなところで、地道にバイトするタイプとは思ってなかったよ」

「なにいってんすかぁ。俺は真面目な苦学生っすよ。こうして深夜にバイトしても、午前中の講義だってちゃんと顔を出しますもん」

「へえ、なんか見直しちゃうな」

「……」

 楽し気に話す先輩たちの会話を、その傍らで作業を続けながら聴いていた。それにしても美人だな、なんて時折チラ見しつつ、そんな自分自身を虚しく思う。

 大学に合格していたら、僕にもこんな未来が――なんて、つい後ろ向きに考えてしまうのだった。

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