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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章  山本均 


 ――ドッ!

 いつもの如く両手いっぱいに抱えた品物が、僕の目の前に置かれた。もちろん、続いてレジにきていたのは岬ちゃんだった。

 美里さんとの会話を聴かれた?

 いつもより無造作に品物を置いたように感じて、彼女の心中を探る。でも仮に彼女が怒っているとしたら、一番の原因はやはり他にあると考えるべきだ。

「あの――」

 その辺りのことを聞こうとするけど、店の奥で先輩がニヤニヤしてるのがわかり、言葉を止めた。先輩にすれば、妙なお客の相手をする僕を単純にからかっているようだけど。

 例のメッセージの相手がドテモンだということは、当然ながら夢にも思ってない。それだけに、今の先輩の態度が余計にイラっとする。

 とりあえず現在勤務中の僕は、仕事を優先しなければならない。置かれた品物をレジに通し会計を済ませて、話はそれからでも――。

「千九百八十円になります」

「……」

 岬ちゃんはどてらのポケットから、今日は千円札を二枚出し、そっとカウンターの上に置いた。

 それを受け取り、お釣りの二十円を手渡そうとした時。

「さっきは――」――ごめんね。

 まずは謝ろうとした、その言葉を言い終わる前に。

 きゅう、と。銅硬貨二枚を所持する僕の右手を、岬ちゃんが握った。

「わ、わたしなら……いつでも」

 とても小さな声だけど、彼女は確かにそう言った。

「え?」

 言葉は聞き取れても、その意図を理解することができずにいた。たぶん、ポカンと間抜けな顔を晒していたことだろう。

 すると、岬ちゃんの背後から、先輩の無遠慮な声が深夜の店内にうるさく響いた。

「おーい! またトラブルかあ?」

 それに驚きビクンと肩をすぼめた岬ちゃんは、お釣りを僕の手から奪い取るようにして、急ぎ足で店を出ていった。

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