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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第8章  あやか 


    ◇    ◇


 友達が先方のアポイントメントを取ったのは、その週末の土曜日。電車を乗り継ぎ到着した都心の駅は、プラットホームに下り立つと熱気がゆらゆらと立ち込めていた。

 訪れたのは駅から徒歩十分くらいの雑居ビル。道中スマホで位置情報を確認しながら通った路地は、熱気を放射するエアコンの室外機や、飲食店の裏の油まみれの排気口などが口を開け、自然と蛇行するようにして歩くことになった。

 ビルの三階まで狭いエレベーターで上がると、なんの変哲もないアルミ枠のドアの前に立った。そこに名刺と同じロゴが記されていることを確認して、三人で顔を見合わせた。

 すると気配を感じたのか、ドアは中から開かれた。

「いらっしゃい。よくきたねー」

「こ、こんにちは」

 スカウトされた友達の挨拶に合わせて、わたしも頭を下げた。そうしながら相手の顔を窺う。目が合うと微笑みかけられ、咄嗟に視線をそらした。

「ハハハ、そんなに緊張しなくても大丈夫! さあ、入って」

 サムズアップした右手を突き出すと、わたしたちを事務所の中に誘った。

 どうやら、この人が友達をスカウトした本人のよう。名刺に記されていた名前は、確か――そう考える間にソファーを勧められ、三人で肩をくっつけながら座った。

 相手の方は、日の差し込まない窓を背にして向かい側のソファーに長い足を組んで座った。

「今日はきてくれて、ありがとう。ファンCプロモーション社長の加賀見永一と申します」

 加賀見さんの第一印象は、日焼けした浅黒い肌により一層目立つ、白い歯。よく通る太い声をしていて、いかにもその業界の人というチャラさはあったけど、人懐っこい笑顔でそれを中和したような人だった。

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