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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章 山本均
「就職しなさい」
最初に母から言われ、ぎょっとした。
次の年の合格を目指して、予備校通いの許可を得ようと交渉に臨んでいた。そんな僕からしてみたら「就職」の一語は、出鼻を挫かれるに十分なパワーワードなのだ。
どちらかといったら与しやすいと考えていた母から告げられた言葉だけに、一気に旗色が悪くなる。
「ま、待ってよ! あと一年! 一年間しっかりやれば、次は必ず――」
「駄目だ」
有無を言わせぬ父の重厚な声音が、交渉のテーブルを支配するかのように響いた。
「浪人はないと言い渡してあったな。それにも関わらず、決まりを反故にしようとするその態度はなんだ。今のお前では一年を無駄にするのが目に見えている。就職した方が身のためだ」
「だ、だから少し待って」
父の鋭い視線を前にして、とりあえず浪人は無理そうだと判断した。そこで予め用意していたプランBへと移行したのだけど。
「うん、わかった。確かに浪人はしない約束。でも、だからって就職だけが選択肢じゃないでしょう?」
「他に、なにか考えでもあるのか?」
「うん……専門学校とか、どうかなって」
それを聞いた両親は、訝しげに顔を見合わせた。