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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第8章 あやか
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わたしはソファーから立ち上がると、近づいて挨拶をする。
「ゆうかさん、お久しぶりです。レッスンの時はお世話になりました」
親し気な笑顔を返してくれると期待したが、ゆうかさんはまるでこちら姿が認識できないかのように、わたしの肩越しに加賀見さんに声をかけた。
「社長、お話があります」
「今は、あやかと打ち合わせ中だよ。今度にしてくれないか」
「大事な話なんです」
加賀見さんは、小さく舌打ちをしてから言った。
「向かいのカフェで待っててくれ。三十分したら行く」
「あの――」
そのまま出て行こうとする、ゆうかさんを呼び止めようとしたけど。
「……」
ゆうかさんは黙って、わたしを睨みつけ、なにも言わずに事務所を後にした。
呆然と立ち尽くすわたしに、加賀見さんが言った。
「ま、気にするなよ。わかるだろ? そういう世界だ」
ゆうかさんの態度が、いじめをするクラスメイトと同じようなものだと、単純には割り切れない気がした。でもどの道、なにかを得ればなにかを失うという点で、この世界においては特に顕著であるのかもしれない。
いろいろなものが、自分から離れていっている。その感覚に慣れてしまうことが、そこはかとなく怖かった。
「今日は、いい報せがあるぞ」
「なんですか?」
「年末に公開予定の映画へのオファーがあった。出演シーンは少ないようだけど、主役と絡みもあって、それなりに重要な役という話だ」
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