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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章  山本均 



「つい、咄嗟で……というか、岬ちゃん?」

 言いながら、彼女は小首を傾げた。

「ご、ごめん。いきなり、なれなれしかったかな?」

「いっ、いいです! 是非、そう呼んであげてください!」

「あげて、ください?」

 その言い方を妙だと感じて、顔を見つめるけど。

「べ、別になんでも……それより」

「?」

「では、こちらも……均くん、と。そう呼ばせてもらって、かまいませんか?」

「もちろん」

 つい笑顔になり答えると、岬ちゃんもはにかんだように笑う。

 なんとなく、いい雰囲気だと感じた。男女間に漂う空気に、しったような顔はできない僕ではあるけれど。少なくともバイトの間に懸念していたようなことは、吹き飛んだ気がした。

「では、参りましょう」

「参る……?」

「とりあえず、こっちです」

 背中を向けると路地の先を指さし、岬ちゃんは歩き始めた。どうやら、後をついてきて、ということのようなので、彼女の少し後に続く。

 歩きながら「どこへ行くの?」と聞こうとして、止める。別の話題をいくつか頭に思い浮かべたけど、どれも岬ちゃんの興味を引きそうな話題ではなさそうだと感じた。

 後ろを振り向かずに、ずんずんと歩を進める彼女のことを、僕はまだなにもしらない。

「それ、持つよ」

「いえ、大丈夫です」

「いいから、かして」

 パンパンに膨らんで重そうな大きいレジ袋を、やや強引に取り上げた。

「あ、ありがとうございます」

 岬ちゃんは僕の方を見ずに、ちょこんと頭を下げた。

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