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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章 山本均
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数日分の食料(おそらくは)だけあって、それはズシリと重く指に食い込む。これだけの荷物を持って歩くにしては、道のりは意外に感じるほど遠かった。
でもそれは、細く人気の少ない道を選んでいたせいでもある。たまに路地で他の人とすれ違う時に、岬ちゃんは足を止め壁の方を向くと決して目を合わせないようにして、やり過ごしているのだ。
やっぱり人と接することが、極端に苦手みたい。
今日はたまたま早朝ではあるけど、いつもはこんな寂しい路地裏を深夜帯に一人で往復しているのだ。それも帰りは重い食料を手にして、決して短くない道のりを歩いていかなければならない。
僕の働くコンビニより、近い店舗は他にも複数あるはず。なのに、どうして? そんな一つの矛盾が、彼女の内面の複雑さを物語っているように思えた。
「着きました」
不意に立ち止まり岬ちゃんが見上げたのは、比較的新しいアパートの建物。つまりそこに、彼女の住む部屋があるということだろう。コンビニの近くと聞いていたのに、遠回りしたことを差し引いても軽く三十分近くは歩いていた。
さっき僕が「どこへ行くの?」と聞かなかったのは、白々しいと感じたから。はじめから行先には、予想がついていた。
一人暮らしで引きこもりの彼女に、他に行く場所なんてないのだから。
そして、僕が言い出せなかった言葉は他にもあって……。
「私の部屋は、二階です」
そう言った岬ちゃんに促され、外階段を上がり『205』と記されたドアの前に立つ。
「今……開けます」
ゆっくりとした動作で、どてらのポケットから鍵を取り出す。そしてカチャと音を立てた時に、彼女の手が震えているのがわかった。
それを見た時、今の自分のことをとても卑怯だと感じる。
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