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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第8章 あやか
◇ ◇
それから数週間して、わたしは一人で再び事務所を訪れていた。
それまで途方に暮れていた自分を奮い立たせたのは、ある決意を実行に移すためだった。
「おっ、よくきたな」
そんなこちらの気持ちをよそに、加賀見さんは脱力した笑顔を振りまいた。それまでアポイントを取れなかったのは、あの件の後処理で時間を要していたからだという。
結果的には、加賀見さんの見立て通りだった。テレビのワイドショーは、わたしと浜谷のスキャンダルを一斉にスルー。ネット上では、様々な憶測や疑念を呼んだが、公共の電波という出力がない以上、それらは蓋をされたも同然だったようだ。
ネットの中ですら、売名行為の弘前あやかを許すな、という論調が日に日に増える。浜谷陸也のファンが中心となり、そうしているのだろうと、なんとなく気づくことになった。
浜谷陸也は今日もテレビでファンの歓声を浴び、わたしは黒い噂だけを背負い、ひっそりと消えようとしていた。
「当面、あやかにやってもらう仕事を説明しよう」
加賀見さんはデスクの上のパソコンを開き、それを起動させながら言った。
わたしとしては、最早それに傾けるべき耳を持たない。が実行のためには怒りを溜めることが必要だったので、それを黙って聞いた。
「何事にも表と裏がある。あるいは、光と闇というべきかな。すなわち、光の当たる場所で仕事を干されたあやかにも、闇に潜れば仕事にありつける、ということ」
「……?」