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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
そのはかない横顔を前に、僕はぐっと拳を握り締めた。「僕がいる」と言って、彼女を抱きしめることが、できずにいた。今言っても、言葉が軽い。
「加賀見から両親がどれだけの額を受け取ったのか、わたしはそれをしりません。ただ、その後、両親から、傷を癒し忘れるためにいくつかの提案を受けます。学校に行くのが辛いのなら、家庭教師を雇って大学を目指してもいい。環境を大きく変えたいのなら、海外留学がいいのではないか。それらを聞き、わたしは自らの心に問いかけます。そして、ぼろぼろになったわたしが望んだのは、両親も含めた俗世間との別離――その形がそのまま、この部屋での現在の生活となります」
「……」
ただでさえ物が少ない室内を、それまでよりずっと寂しげだと感じている。しかし、それこそが彼女が望んで辿り着いた場所だ。そうするしかできなかった岬ちゃんの心こそが、なににも増して哀しいのだと思った。
そして僕は、それを問われる。
「こんな、わたしに抱く――同情以外の、均くんの気持ちを教えてください」
真っ直ぐな眼差しは、僕を捉えて逃がさないように。生半可な気持ちを示せば、すべて滅せられるような迫力を帯びている。
それを承知でありながら、僕は覚悟を伴わない言葉を滑らせてしまう。
「僕は、キミが……好き……だ?」
その心もとないセリフを、それでも一旦は受け止めて、岬ちゃんは言う。
「ありがとうございます。ですが、わたしにはその気持ちを受け入れる資格がありません」
感情が高ぶる。なぜか怒りに震える。それは無力な自分自身に対してだろう。