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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章 山本均
「待って!」
「……?」
彼女が振り返り、僕たちはここにくるまでの間で、はじめて目を合わせていた。
「あの、メッセージのことなんだけど……」
言えなかった、もうひとつがそれだ。
今までその点に触れなかったのは、心の中に邪な気持ちがあったからだ。先輩のふざけたメッセージを真に受けて、岬ちゃんは知り合ったばかりの僕を自分の部屋に招こうとしている。
彼女がそうしようとした動機は想像もつかないけど、このまま部屋に入ってしまうのがどういう意味か、意識しないわけがない。だからこそ、後ろめたかった。
あれはバイトの先輩の悪ふざけであって、取り消そうと思っている内にバイトの時間になっていたこと。事の経緯をしっかり話して、ちゃんと誤解を解くべきだ。
勘違いして部屋まで連れてきたとしたら、岬ちゃんには恥をかかせてしまうのだろうか。少なくとも、さっきまで感じていた〝いい雰囲気〟は、壊れてしまうに違いなかった。
それでも悪いのは僕なので、とにかくちゃんと謝るしかない。勘違いのまま、二人の関係を妙に進めてしまうことが、やっぱり嫌だと思っている。
と、その時「じゃあ、行ってくるよ」と声がする。隣の部屋のドアが開き住人が出てきそうな気配を感じて、視線をそっちへ送った瞬間。
「あ!」
強く手を引かれた勢いのままに、僕は『205』のドアの中に足を踏み入れてしまう。