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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
◆ ◆
「じゃあ、行こうか」
「うん……」
僕は岬ちゃんの手を握って、彼女のアパートの部屋を後にする。彼女の姿は〝ドテモン〟の装いだ。これから二人で、行くところがあった。
僕が強引に彼女を抱こうとして、平手で打たれ、告白を受けたあの後。僕たちは二人で真剣に、これからのことを話し合った。
そして彼女が辛い過去を振り切るために、避けては通れないものを確認する。彼女の傷跡を、少しでも癒すためにも。
「ここだね」
僕は名刺に記された住所をスマホの位置情報と照らし合わせて、縦長のビルの前にいる。僕がバイトに通うのに利用している駅の反対側。小さなオフィスやスナック等が入り混じって、ごみごみとした場所だ。
ビルの中の狭い階段を上がり、二階のドアの前に立つ。『ファンCプロモーション』との表記されたプレートが、斜めに傾いていた。
その名称は、弘前あやかが所属した事務所と同じだけど、彼女はこの場所に覚えがないという。どうやら、移転してきたようだ。
ドアをノックする。「開いてるよー」と返事があった。
「……」
否応なく緊張を滲ませる彼女の、眼鏡の奥の瞳と視線を合わせた。小さく頷いたのをみて、僕はドアノブをひねる。
事務所の中は、事務所と表現することが憚られるほど、酷く荒れていた。収まりきらずに書類が溢れかえっている段ボールが、あちらこちらに放置され、床のところどころにはビールの空き缶やブランデーの空き瓶が転がっている。