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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
椅子の背もたれに背中を委ねたまま、加賀見は面倒そうにこちらに顔を向ける。僕の背後にいる彼女の存在に気づいてか、訝し気に顔をしかめる。
「なにか、御用ですかぁ?」
加賀見は眠そうに、欠伸をする。酒に酔っているようだ。窓から西日が射し込む室内は、細かい埃がゆっくりと滞留しているのが、よくわかった。
現在の時刻は、まだ午後の三時だ。
「加賀見永一さんですね。お話があります」
僕は平静さを装うために、声音を変える。それでも、身体の中で鳴り響く心臓の音は消すことはできないけど。
「あれ? キミは、どこかで――」
加賀見の声に、僕の背中に張り付いている彼女が、びくっと身を縮める。しかし、相手が言っているのは、僕のことだ。
「コンビニで、二度ほどお会いしましたね」
「ああ、なんだ。なにかと絡んできた、バイトくんじゃないか」
加賀見は言いながら、ゆらりと立ち上がり、おぼつかない足取りで僕たちの方にやってきた。
大丈夫。
背中の後ろで繋いだ手を握り、彼女に伝える。
「お話したいことが、あります」
「コンビニでつり銭でも間違えたかな?」
「いいえ」
「そう。じゃあ、この場所はどうやってしったんだい?」
「これです」
僕は持っていた名刺をみせた。
「ふーん、そっかぁ。なんかしらんけど、じゃあ座りなよ」
加賀見は言って、来客用と思しき埃だらけのソファーセットを差した。