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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


「――どうする? あやか」

 咄嗟のことで、なす術がなかった。加賀見は素早い動きで彼女の眼鏡とマスクを取り去り、その素顔を露わにさせた。

「最初から、気づいて……?」

「いや、別に。話してる内になんとなく、懐かしい匂いがしてきたんだ」

 加賀見に嫌な視線を向けられ、岬ちゃんが怯える。僕はそっと肩を抱いた。

「動画をネットで拾ったというのも嘘だろ? あやか本人が流出しない限り、あり得ないことだ。そして、そんなことをするはずがない。キミはあやかの彼氏か?」

「そうです」

 厳密にそう言えるかわからないけど、加賀見相手に話を進めなければならない。

「あいにくだが、同じネタで二度も金を払うほどお人好しじゃないんでね。しかし、金が目的というのなら、いい話があるぜ。だから俺も、あやかを探していたわけだしね」

「その、話というのは?」

「なに、簡単なこと。つまり、あの一件から二年が過ぎ、年齢的にも禊という意味合いでも調度いいころ合いというわけさ。それでいてスキャンダルのインパクトも残り、知名度は申し分なし。俺にまかせれば、AⅤに高く売ってやることができるってわけだ」

「――!」

 やはりこの男は最低だ。自分でしたことを忘れ去り、この期に及んで岬ちゃんを食い物にしようとしている。

 隣の岬ちゃんをみた。顔色が青白く、風邪を引いたように全身をかたがたと震わせている。そして、僕の怒りも頂点に達しようとしていた。

 頼むから、頭を下げてくれ。無駄だとしりつつも、僕は願う。嘘でもいいから「悪かった」と言ってくれ。

 しかし、加賀見の口から吐き出した言葉は、またしても最悪のものになる。

「また一緒に、ひと儲けしよう――ぜ!?」

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