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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
「それ以上は……!」
もう我慢はできなかった。
僕は右手に握った果物ナイフを、加賀見の眼前に突きつけた。わずかでも手元が狂っていれば、顔を切り裂いていたかもしれない。
ナイフは岬ちゃんの部屋で、彼女が支度をしている間に手にしていた。いざという時のために、コートの内ポケットに忍ばせていたのだ。
今はその切っ先が、加賀見の眼前――見開かれた右目と1センチの距離にまで迫っている。
「オイオイ、冗談だろ……?」
加賀見の浅黒い顔に、汗が伝った。
そして僕はおそらく、加賀見以上の緊張に見舞われている。
弱い、いつもの僕ではなく――今こそ、強く――強い自分に、変われ!
そう言い聞かせると、不安定に震えるナイフをぴたりと止める。そして低く通る声を用い、加賀見に言った。
「悪いけど、冗談なんかじゃない。これ以上、彼女を傷つけるのなら、本気でアンタを許さない」
「ど、どうしたんだよ、急に? そ、そっちだって金が目的だったはずだろ?」
「違う。こっちが求めるのは、心からの懺悔だ。それができないのなら、このまま右目を刺す!」
そのまま緊迫した時間が、どれくらい過ぎただろう。オレンジ色の西日が差す事務所には、コッコッという置時計の秒針だけが、その音の存在を際立たせていた。
「や、やってみろよ!」
沈黙を破り、加賀見が叫ぶ。
ナイフから逃れるように、ソファーに大きくのけぞった体勢。それを追うようにさらに突きつけた刃先から、逆に逃れられなくなっていた。