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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


 それに対して、加賀見の方は――。

「ふっ、ふふ――アハハハハハ! こりゃ、傑作だ!」

 ソファーの上で完全に横になると、足をバタバタとさせながら腹を抱えて笑ったのである。

 そんな横暴さを看過できるはずもなく、僕は掴みかかろうするが。

「ぐっ!」

 迎え撃つような右足に、みぞおちを蹴られ、僕は一転、床に倒れ込んでしまった。右手からナイフが落ちる。

 ゆらりと立ち上がり、今度は加賀見が僕を見下ろした。

「さぁて、どうしてやろうか」

 ニヒルに笑いながら、床に転がったナイフを手にする。

「加賀見さん、許してください!」

 岬ちゃんが、僕を庇うように割って入った。

「許す? まあ、あやかがそう言うなら、といいたいところだが。彼氏の方は、ちょっとやりすぎだな」

「違います」

「ん?」

「許してほしいというのは、わたしのことです」

「……」

 その訴えには、加賀見すら顔を歪めるしかできないでいる。先ほど、深く頭を下げた行為も、その意図はまるでわかりはしない。

 岬ちゃんは、もう怯えることなく、加賀見に対峙している。そして、真っ直ぐに相手をみつめ、静かだけどはっきりとした口調で話しはじめた。

「加賀見さんとのことを、両親に任せたのはわたしの間違いでした。結局は、逃げていたんだと思います」

「だからって今更、話を蒸し返すなよ。お前の親には、それ相応の金額を支払ったんだからな」

「蒸し返す気はありません。そうではなく、取り返しがつかないことを、わたし自身がしてしまいました」

「どういうことだ?」

「憶えていますか? わたしが加賀見さんの子を、身ごもったこと」

 そう訊ねられた加賀見は、大きないら立ちを隠さなかった。

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