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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


「だからぁ! それも含めて、十分な金を――」

「わたしが言いたいのは、お金のことではありません」

「じゃあ、なんだ?」

 興奮を高める加賀見に対し、岬ちゃんはあくまで切々と語り続けていた。

「中絶手術を受ける際、同意書には男性側の承諾が求められていました。しかし、わたしは事情があると説明し、自らの同意だけで手術を受けることを決めました」

「だから……なんだよ?」

「つまり、加賀見さんの子を、わたしは勝手に堕したんです。だから――ごめんなさい」

 再び頭を下げた岬ちゃんを、加賀見は信じられないといった様子で眺めていた。

「はあ? 頭、おかしーんじゃねーのか! 俺がお前にやったこと、忘れちまったのかよぉ!」

「あの動画と同じく鮮明に、わたしの心からそれが消えたことはありません」

「じゃあ、どうして俺に――頭を下げるんだ!」

「それでも、わたしは――産まなかったことを後悔している。きっと、この先もずっと――」

「バカを言うな! バカを言うな! バカを言うな!」

 加賀見は狂ったように長髪を振り乱し、わめき散らした挙句。テーブルの角に脚を取られ、その上に倒れ込んだ。

 そして、両手で顔を覆うようにして、ぼそりと呟いた。

「頼むから……もう、勘弁してくれ」

 僕にはその言葉が、加賀見なりの本心であるように感じられた。

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