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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


    ◆    ◆


 二人で岬ちゃんの部屋に戻ったころには、もうすっかり日が落ちていた。

「本当にあれで、よかったのかな?」

「均くん?」

「だって、結局はアイツ、一度だって謝罪を口にしなかったし……」

 不満を漏らした僕に、彼女はふっと微笑む。

「いいんです。はじめから、形だけの言葉なんて求めてません。本心を暴くことができればと、均くんも言ってたじゃないですか。その意味では、あの人のあんな姿を見られただけで、目的は果たせたと思ってます」

 岬ちゃんにそう言ってもらうと、少しは気分が楽になった。それでも、不思議に思うことがある。

「岬ちゃんには、わかってたの? 加賀見が、あんな風に取り乱すこと。僕は正直、途中からは想像もつかなかった。開き直ってこちらをあざ笑うような態度に出られた時には、もう真面に話が通じる相手じゃないって、あきらめるしかなかったから……」

「わたしだって、確信があったわけじゃなかったんです。最初は顔を見るだけでも、身体が震えてしまって。だけど――」

「だけど?」

「昔、人前で緊張を和らげるためのアドバイスを求めた時に、本人から聞いたことがあったんです。動揺を隠す時こそ、無理にでも笑みを作るんだって」

「!」

「途中から何度か、そういう笑みを浮かべているのがわかって――ああ、この人も動揺してるんだなと、そう思うことができました」

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