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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


    ◆    ◆


「……」

 動画を改めて視聴し僕、山本均はふっと息を漏らす。久しぶりに観ても、当時の緊張感が呼び覚まされる想いだった。

 会話の最後に入った音と遠くから響いてきた声は、実は僕自身のものである。その声に驚き浜谷が硬直した隙をつき、岬は部屋を出ていた。

 先に話したように、オリジナルの動画は既に削除されている。しかし、その後にも多く人の手により、より多くの人々が動画を目にすることになった。その影響は大きい。

 当初は専ら、ネット上でのこと。SNSや有名なまとめサイトにより、多くの人が動画の存在をしることになると、ネット上で様々な賛否の意見を生んだ。

 いわゆる炎上というやつだろう。

 最初こそ弘前あやかへの同情の意見が渦巻いていたが、ほんの数日でその形勢は一転する。その後は暫く、浜谷陸也への擁護がネット上を支配したのだ。

 たとえば【売名行為でしょ】【そもそも、やり口が卑劣】【単なるハニートラップじゃない?】などのものであり、浜谷の方がむしろ被害者であるような論調だ。

 それらは浜谷陸也のファンたちが中心となったのは間違いないが、その背景には事務所サイドによる印象操作があったとされた。

 いくらネット上で炎上しようとも、雑誌の紙面を賑わせようとも、各テレビ局がこの話題をワイドショーで取り上げることはなかった。

 『テレビで報じない』=『噂にすぎない』。

 今も続くその理不尽の中で、この話題も徐々に静かな収束をみせはじめていた。

 動画上の弘前あやかは、あまりに淡々としていて、ともすれば視聴した人に冷たい印象を与えてしまったのかもしれない。少なくとも涙ながらに訴えていれば、空気は大きく変わっていたはずだ。

 だけど当然、僕はしっている。それは岬自身にも、大きな葛藤があったということ。自分の手段を肯定しきれないからこそ、感情には訴えずに事実のみを伝えた。

 自らの非を認めつつ、岬はそれでも戦ったのだ。

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