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第9章 　　僕　　

「ちょっと、待ってください。彼が彼女を暴行をしたというのは、事実としてなんら確定したわけではない」

「そんなことは、わかってます。しかし当人も事務所側にしても、多くのタレントとの関係については認めているんです。セクハラあるいはパワハラといった観点から見ても、現時点で道義的な責任は免れようがありません！」

「ですが——」

　議論が白熱する。

　最初にテレビで報じられなかった、この件が、動画投稿から数か月を経て、公然と語られるようになったのには、もちろん事情がある。

　弘前あやかと同様の被害を訴えた、数人の元タレントによる雑誌上の告発記事もそのひとつだけど、一番の決め手になったのは、やはり――。

「そもそも浜谷陸也の逮捕がなければ、逆に名誉棄損で訴訟を起こされていた可能性は高いですよ。そういった危険性も指摘しなければ、特に若い世代には悪い影響を及ぼしかねません」

　そうなのである。男性コメンテーターが話したように、浜谷陸也は違法薬物の所持で現行犯逮捕された。今から半月ほど前のことだ。

　その週のワイドショーは、各局その話題一色となった。いかに大手事務所『Ｄ‘ｓ』であっても、逮捕に至った一件に対してまで、その報道に圧力をかけることはできないということ。

　今日になって改めてテレビで扱われているのは、浜谷陸也被告人の仮釈放を受けてのものである。これから執り行われる裁判に際し、過去の判例に基づきどの程度の判決が予想されるかなどを説明した後、議論を取り交わしている内に、弘前あやかの件にまで話が及んでいるようだ。