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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
こうした流れでみれば、偶然の浜谷陸也の逮捕により、皮肉にも弘前あやかが救われたような印象を受けるかもしれない。しかし、それは違うと思う。あの動画の中で、浜谷自身が薬物の存在を匂わせていたからこそ、このタイミングでの逮捕に至ったと、僕は考えている。
岬の捨て身の戦いは、決して無駄ではなかったはずだ。
もちろん、浜谷陸也が岬に対する暴行で裁きを受けることはない。しかし、今回の逮捕で従来あった浜谷への擁護は、もうすっかりと消え去っていた。
この結果を受けても、岬自身の気持ちが晴れ渡ることはないのだろう。顔と名を出したことへの弊害は覚悟していたとしても、やはり虚しさを感じている部分は多かったように思う。
そして彼女が本当に立ち上がるのは、これから。動画に端を発する一連の騒動は、そのためのきっかけにすぎなかった。
番組の終わりに、それまで話を聞いていた五十代の司会者が、次のようにまとめた。
「わたしは、この一件がテレビの転換期になるべきだと考えています。実際に最初のスキャンダルはテレビのワイドショーでは扱われることがありませんでした。今回の件も、ネットで大々的に炎上したにも関わらず、当初テレビは無視を決め込んだわけですね。ちょっと思い返してください。それまでにも、同じようなことが数多くありました。同種のスキャンダルであっても、連日報じられるものと、まったく扱われないものがあったと思います。その背景にあるのは、タレントの所属事務所の大小であることは、実はテレビに携わる皆さんが、よくご存じのことなのです。まあ、こういった発言をした私自身、二度とテレビに出られないかもしれませんが……ハハハ。仮にそうだとしても、この先も同じことを繰り返すのは、もうやめにしたいものです。私はそう思います」
結局、浜谷が本当に裁かれるべき件についてはグレーゾーンのまま。違法薬物所持は初犯ということもあり、執行猶予がつくという見立てだった。
いつの日か浜谷陸也は、芸能界に復帰することすらありえるのかもしれない。
そう考えると、僕の気持ちもどこか晴れなかった。