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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕
◆ ◆
更に季節は巡り、風邪に涼しさを感じる秋を迎えた。
僕は数日ぶりに、深夜のコンビニを訪れている。だけど、もうバイトにきたのではなかった。
「木村さん!」
「おお、山本ぉ!」
木村さんとは、およそ一年間、深夜帯のシフトで共に働いた仲だ。バイトをしている時は、決して仲良くしていたとはいえないけど(なにせ、サボり魔であるし……)。今となっては、それもいい思い出……かな?
まあ、岬と知り合えたのも、ある意味、この先輩のおかげなのだから。
「それで、お前どうするんだよ?」
「はい。とりあえず母方の祖父母を頼って、田舎で暮らすつもりです。暫くは農作業を手伝ったりしながら、その後のことをよく考えてみようかと」
「田舎とはいっても大変だな。彼女が彼女だけに」
「まあ、覚悟はしてますから」
「しっかし、まさかだぜ。お前の彼女があのドテモンで、しかもその正体が、弘前あやかだったなんて」
「ハハハ」
「週刊誌の記者が取材できたら、弘前あやかの彼氏は、真面目だけが取り柄だって言っておいてやるよ」
「取材は受けるんすね……」
いつものコンビニで、最後に先輩と笑い合った。
だけど、バイトではなく訪れたコンビニは、少し違って見えた気がして。先輩の着ているオレンジの制服が、今はやけにカッコよく見えた。
いい思い出とは、いえないのかもしれない。それでもこのコンビニで、僕は青春の一ページをすごした。もう、ここで働くこともない。
「ま、がんばれよ」
「はい!」
大きな声で返事をして、出ていこうとした時だ、不意に振り向き、僕は言った。
「先輩って、いい人ですね」
すると――
「バーカ! 人間なんて、いい部分と悪い部分がごちゃませの生物なんだよ。そんな簡単な言葉を、俺に押しつけるな。大体、柄じゃねーよ」
「アハハ! では、撤回します」