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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章  山本均 


「……」

 予想してないというのは、本当は嘘だ。今、僕がこの部屋にいるのは、あのメッセージに端を発してのことだと、わかりきっている。

 そうだとしても、その点を自ら口にした彼女の意図が読めずに、僕は口を噤んでしまう。でもそれでは、あまりにも情けない。

 目の前の岬ちゃんは、どてらを脱いだジャージの肩をきゅっと窄めて、両手を正座した太ももの上で突っ張るようにすると、全身を固くしている。真っ赤に染まっていたはずの頬は、ヘアゴムを解いたサラサラの髪が覆い隠した。

 このまま、抱きしめてしまえば――。

 考えて胸が熱くなった。彼女の部屋に二人きり。鼓動を早め、震える指先を伸ばす――が。

「わたし――エッチは、できませんから」

 心臓が飛び出しそうなくらい、ドクンと脈打ち、肩に触れようとした手をさっと下げた。

「ご、ごめん! というか、違うんだ。そもそも――」

 慌てて紡ごうとした言葉が、上擦ってしまう。やましい下心が透けたみたいで、この上なく恥ずかしかった。

 雰囲気に流され、とんでもない思い違いをするところ。自分を戒めるように胸に手を置くと、深く息を吸う。なるべく落ち着いてから、話しはじめた。

「最初にあのメッセージのことを、謝らなくちゃいけなかった。本当は、ここにくる前にそうすべきだったのに……」

「いいんです。外だと、わたしの方が真面に話せないので……」

 そう言って顔を上げた彼女と、じっと見つめ合った時。

「できる限りは、がんばっ――て?」
「あれは僕じゃなく、先ぱい――が?」

 同時に発した声が、互いの音を打ち消し合った。

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