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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第2章 〝岬〟
◇ ◇
〝あの人たち〟に自由を確約させて、わたしはアパートの部屋と当面暮らしていけるだけのお金を手に入れた。とにかく嫌な思いが残る住処(すみか)と、それまでの生活区域を離れたい一心でのことだ。
一人になれば羽が生えたみたいに、どうとでもできる気がしていた。でも、すぐに行動を起こすことはしない。わたしの心は疲れていたから、少し休む必要があった。そう思っていた。
でも、一日が過ぎる度に、どんどん身も心も重くなる一方だった。わたしの中の傷跡は、想像してたより、ずっと厄介な代物だと痛感することになった。
やがて〝わたしがわたし〟であるから、いけないのだと考えるようになった。
アパートから最初に外に出たとき、女っぽい身体のラインが気になった。特に男の人からの視線に、絶えず晒されることが耐えがたい。だから覆い隠すために、ルーズで地味なジャージを身に着けようと思った。
昔は一日に何度も何度も繰り返し鏡に映し、満足そうに眺めていた素顔。次にわたしは、それを疎ましく思うようになる。
過剰だった自意識と相まって、それらを真に醜いと感じた。どこかに転がっていた黒縁の眼鏡と大きな風邪のマスクを着用する、それが理由。髪は後ろで束ね、その上から色がくすんだくたびれた帽子を被った。
そして季節が肌寒くなると、野暮ったいことを承知で、花柄のどてらをジャージの上に羽織った。
そうやって、現在のわたしが完成している。