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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第1章 山本均
ちなみに「ドテモン」という呼称は、先輩が勝手につけたもの。いつも羽織っている花柄の〝どてら〟と〝モンスター〟を合わせた造語らしいのだけど。
「アイツ、気持ちわりーよなあ。いつも、こんな夜中に出現しやがって」
先輩の「出現」という言葉のチョイスが、ことさらにモンスター感を煽っている。
「ちょっと、聴こえますって」
僕は小声で、悪態をつく先輩をたしなめる。話題の当人が、品物を両手いっぱいに抱えて、レジの方へゆっくりと近づいてきていた。
「大丈夫ですか?」
そう言いながら、商品を落とさないように軽く手をそえた。そして、カウンターに置かれた品物を、順々にレジへ通してゆく。
その間、先輩の方は手伝う気配もなく、ただ横に立ってすまし顔をしていた。なんとなく、なにかを企んでいるのだろうと感じてはいたけど。
「千七百五十六円になります」
ドテモンさんはポケットから黙って一万円札を取り出すと、僕の方におずおずと差し出してくる。
「よろしいですか?」
コクリと頷いたのを見て、それを受け取ろうとした時だ。
「すみませんねー」
突然そう声を上げた先輩が、一万円札をひらりと取り上げ、こんな風に言う。
「ただいま釣銭を切らしておりますので、失礼ですがこちらではお会計することができかねます」