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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第3章 たもつ
胸をこれでもかとドキドキさせながら、その言葉を言った。異なる声音ではもっとずっと、いやらしいことを平気で言ってたくせして……。
「……」
岬ちゃんは返事をしなかった。だけど僕を上目づかいに見つめた瞳に吸い込まれるように、自然と顔を近づけてゆく。彼女の方でも迎えるように、軽く顎を上げ唇を前に出してくれた。
両肩に手を置き、唇を重ねる。僕にとって、はじめてのキスだ。ほんの数秒で唇を離し、ゆっくりと目を開いた。
岬ちゃんと、視線が重なる。
「……」
「……」
無言で見つめ合った二人の顔は、たぶん、それまでのどの瞬間よりも上気していた。顔から火が出るほどに、熱く。同時に、僕の中に後悔が襲った。でもそれは、キスをしたことにではなかった。
どうして〝ここから〟はじめられなかったのだろう。
今からでも間に合うのではないかと、言葉を探していた。
あのメッセージが誤解だったことを告げ、声を変えて別人に変身でもしたように振舞ったことも、そうして岬ちゃんにした色んなこととか全部なしにして、この瞬間から普通の恋人同士として、もう一回はじめから――
――そんなことを、必死に伝えようとするのだけど。
「……」
岬ちゃんが黙ったまま、そっと顔を背けてしまったから、結局、なにも言うことはできなかった。
今更、後戻りなんて都合がよすぎると、そんな思いが頭をもたげる。だから都合のいい言葉も、見当たりはしない。