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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第5章 閑話 兄弟子夫婦のその夜の話
ビスカスと奥方のローゼルは、名残を惜しまれながら闘人館を後にしました。
今夜は、近くの街に宿を取って、滞在しております。明日は街の観光名所の湖を見に行って、帰る前にまた師範の元に寄り、挨拶をする事にしておりました。
「明日また寄るなら、あのまま居てはいけなかったの?観光は後でにするか、今度来たときでも良かったのに」
「いや……俺達ゃあすこにゃ泊まれねーですからねー」
「どうして?ジャナも淋しそうにしていたし、一緒に寝てあげたかったわ」
夜着に着替えて髪を梳っているローゼルの言葉に、ビスカスは眉を寄せました。
「あそこぁ女人禁制ですぜ。言ったでしょ」
「そうだったわね……でも、ジャナは?」
「あの子ぁ男としてあそこで修行してんです。公的に言やぁ、あそこにゃたった今だって女なんざぁ一人も居やせんよ」
「えっ」
「ぐえっ」
鏡台に向かっている妻を背中から抱いて髪に口付けようとしていたビスカスは、急に振り向いたローゼルの頭で顎を強かに打ちました。
「そんな……そんなの、酷いじゃない!」
本日二度目の顎への衝撃を撫で擦って和らげているビスカスに、ローゼルは噛み付きました。
「ジャナは、女の子でしょう?!殿方ばかりの中に女の子一人なだけでも大変でしょうに、女の子として扱われもしないだなんて……」
「リュリュ。俺ぁ昼間言いやしたよね?あの子ぁ、俺の弟弟子なんですよ」
ビスカスは、ジャナの入門の経緯を、ローゼルに説明しました。
「……ジャナにゃあ、ちゃんと目的が有んですよ。そのために、覚悟して入門してんです。兄さんだって、そんなの無理だって、諦めさせようとしたんですよ?だけどあいつぁ男の振りしてでも、あすこで修行したかったんです。誰が頼んだ訳でも無え、ジャナ本人が望んだんです」
「でも……」
ローゼルは不満そうではありましたが、反論は諦めたらしく、黙り込みました。
ビスカスは、小さく溜め息を吐きました。こうなることを見越して、ウバシからの頼まれ事やジャナの目的について、ローゼルにはここに落ち着くまで、黙っていたのです。
「……でも、心配なんですね?」
ビスカスはひざまづくと、両手でローゼルの手を包み込んで柔らかく握りました。