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秘密の師範と内緒の愛弟子(ビスカスさんのサイドストーリー)
第6章 男装の弟子、女装する
「幸い、ロゼ姉様が、普段着の女装に使える服を何枚か譲って下さいました」
「え。それ、昨日着てたドレスじゃ無かったの?!」
「はい」
ウバシが増えた荷物を指差すと、ジャナはこくんと頷きました。
「あのドレスは、『着る機会が無いでしょう?』って、ロゼ姉様が預かって下さいました」
「……で、普段着を……?」
「はい。『普段着なら、もしかしてこっそり着る機会が有るかもしれないから、持ってお帰りなさい』と」
おそらくローゼルは、女の子として過ごす機会を時々持って貰いたかったのでしょう。外で着ることはなくとも、部屋で着たり、眺めるだけでも、自分が女の子で有ることを忘れないでほしいと、思っていたのではないでしょうか。
(奥様……このムスメには、奥様のお心は、これっぽっちも伝わってませんっ……!!)
「本当に、有り難いです。ドレスは、汚してもいけませんし、第一華やかすぎて目立ってしまうので、任務の女装に向いてませんし」
「ジャナ……」
ウバシは遂に、二の句が継げなくなりました。
ローゼルも、まさか自分の渡した普段着が、そのような事に使われるとは、思って居ないのではないでしょうか。
ここまで思い込まれては、ひっくり返すことは難しいでしょう。実際にやってみさせて、失敗させるしかなさそうです。
ウバシはジャナに関わり始めてから何千回目か分からない、深い溜め息を吐きました。
……その後。
ジャナの突拍子も無い提案は、ウバシの思惑を裏切って、大層上手く行ってしまいました。
仲間内でのジャナは、巧みな技の使い手として、毒に詳しい知恵者として、女装で相手の目をくらます名手として、そして何故かもう一つ、思いも寄らぬ事でその名を轟かせる事になったのですが……
……それは、後々のお話でございます。