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プロポーズ体験売り出します
第1章 ハッピーサプライズ
 今どきは、なんでも商売になる。
親父に言わせると、良い言い方をすれば瞬発力、悪い言い方をすれば
一発屋的な会社がこんなにも増えるなんて、世の中変わったもんだと
うらやましそうに吐き捨てる。
親父はまさにバブル時代の人間だから、終身雇用や年功序列が当たり前で、
地味でも基盤がしっかりしている会社で定年を迎えろと、
酒を飲むたびに熱く語る。

「親父のころとは違うんだよ」

毎度毎度の捨て台詞に、親父は鼻息だけで受け止める。

ベンチャー企業への注目度や関心はだんだん世の中に浸透していっているとは思うが、
だけどプロポーズという人生の節目のイベントを、要は他人に任せるなんて、
任せようなんて、どういう類の人間が考えるのだろうか。
4つ年上の姉貴は、昨年恋人から結婚を申し込まれ、来年結婚する事が
決まっているが、プロポーズの言葉も場所も特別変わった演出もなく、
彼の部屋で姉貴の作った晩飯を食べた後に小さな小箱を渡されただけだと、
それでも幸せそうに目を伏せながら弟の俺に指輪を見せびらかしていた。
そう、どんなシチュエーションだって将来の約束を求められれば嬉しいはずだ。
とびきりシャレたレストランの特別な席じゃなくったって海外ブランドの
ご立派な指輪じゃなくったって、その場面に直面すれば
喜びに声も体も震わせるだろうに。

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