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プロポーズ体験売り出します
第6章 いよいよ、3番目のお客様
「いいのよ、おかげで目が覚めたわ」

オレンジ色に染まるビルの向こうの山を指差してきれいと小さく呟く水神さん。
それから前に差し出していた右手を俺の胸の前へとゆっくりと移動させた。

「この指輪、外してくれる?」

「え?俺が?」

お願い、とじっと俺を見つめる水神さんの唇は少し震えている。
ほんとうは自分で外した方がいいと俺は思うんだけど、
せっかくの体験をぶち壊してしまったお詫びの気持ちを込めて
水神さんの右手をとった。
指輪をつまんでゆっくりと引いていく。
少しサイズが大きいのか水神さんの指が痩せてしまったのか、
すんなりとその指輪は彼女から離された。

外した指輪を右手のひらに置くと、歩き出した水神さんは
ゴミ箱の中に落とした。

「いいんですか?」

「うん。これでやっと前へ進める。ありがとう、ほんとうに、ありがとう」

震える唇をかみしめた水神さん。
その後大きく息を吸って、細く長く吐ききった。
今までため込んでいた淋しさや苦しさを体の中からすべて出し切った。
俺にはそんな風に見えた。
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