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不器用な夫
第8章 当主



既に公平を不幸にした。

曽我は藤原家の大事な跡取りだ。


「僕の事には構わないでくれ…。」


そう曽我に自分の気持ちを伝えてやるだけで精一杯だった。


「藤原家に行くのが決まったら連絡するよ。」

「それは執事の東に頼む。」

「東先輩に?」

「その父親の方だよ。東がこの国松家の執事長だからね。」

「わかった…。」


名残惜しそうに曽我が僕の顔を撫でて帰っていく。

取り残された僕はあの曽我を傷付けたと悔やむ事しか出来なかった。





春休みに入り、藤原家の車が曽我を乗せて僕を迎えに来る。


「京都までは何で行くの?」


誰かと旅行気分なんて僕には久しぶりではしゃぐ気持ちを抑えられない。


「新幹線だけど…、もしかして国松家では自家用ジェットとか使うのか?」


曽我は僕の質問に不安そうに答える。

国松家の資産は謎だらけ…。

国レベルの資産だという話だけが世間には勝手に広まってる。

そんな勘違いを曽我にされても困る僕は苦笑いをして訂正する。


「国松家にそんなものはないよ…、自分達が使わないものや必要ない無駄遣いはしない主義だよ。」


歴代当主が公務員や教職員という地味な国松家に自家用ジェットなんか必要がない。

僕の話に曽我がホッとした表情を浮かべる。


「うちと変わらないんだな。」

「そりゃ、そうだよ。」

「けど…、うちは執事なんか居ないぞ。」

「なら、家の事は誰がやってるの?」


うちの母は何も出来ない人だ。

それは父も同様だから、執事長である東が居なければ郵便物1つ受け取る事が出来ない。


「なんていうか…、親父の若い衆って住み込みの人間だけならうじゃうじゃ居る。」


今度は曽我が苦笑いをする。


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