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不器用な夫
第10章 キス
そんな僕の考えには気付かない曽我が僕に浴衣を着せてから
「朝食にしよう。」
と言って藤原家の長い廊下を歩き出す。
昨日、見た庭が見える和室に来ると漆塗りの立派な座卓には色鮮やかな瀬戸物によそわれた京懐石並の朝食が用意済みになってる。
「凄い…、朝食だね…。」
器はどれも素晴らしく、食事は一流の料理人が調理したとわかる品ばかり…。
「そうか?」
曽我はこんなのが当たり前という態度を見せる。
「凄いよ…、国松家でも朝食はオーソドックスなパンやサラダに卵とベーコンくらいだよ。」
それも雇われたシェフが用意する味気ない食事。
藤原家の朝食は京都らしく繊細な味がする。
「清太郎さんが作ってるからな。」
曽我の言葉に驚くしかない。
「清太郎さんが…?」
「清太郎さんは藤原家が経営する割烹のオーナー兼料理人だからな。当然っていうか、うちの母もこの程度なら作れる。てか、俺はこういう食事しか食わせて貰えない。」
曽我はその立派な朝食が気に入らないとばかりに行儀悪く料理を箸でつつくだけだ。
「それって良い事じゃない?」
母の手料理というだけで僕には羨ましい話だ。
「なんていうか…、料理人気質が強くてさ。冷凍やインスタントは絶対に禁止。俺、未だにラーメンってやつすら食った事ないんだぜ。」
「だって、曽我君はいつも食堂だろ?」
「その食堂で母さんの作った弁当を食ってんだよ。お陰で愛妻弁当だとか言われてからかわれる。」
高校生の愚痴…。
そんなものだと納得すればいいだけなのに曽我の態度にイライラとする。
曽我のお母さんは一生懸命、曽我の為に手料理をするお母さんなのに…。
僕の母は何も出来ずに呪われた国松家に縛られるだけの母親だ。