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不器用な夫
第10章 キス
僕は俯き、曽我はまだ愚痴を言う。
「俺の家、母さん絶対主義なんだよ。父さんが母さんにベタ惚れだから、母さんに少しでも嫌な思いさせたら庭の木に吊るされたりするんだぜ。」
曽我は僕を笑わせようとしただけかもしれない。
兄弟喧嘩をして庭の木に1晩吊るされた話を笑いながら僕に聞かせる。
僕はひたすら苛立ちを感じる。
幸せしか知らない曽我。
普通に兄弟が居て父親と母親の仲が良く、両親は曽我に過保護だとしか僕には感じない。
嫡子を残すだけでも大変な国松家。
父に傷付けられた母は父とは離婚こそしないにしても常に距離を置いている。
「いい…、ご家族じゃないか…。」
「そうでもないさ。清太郎さんだって偉そうにしてるけど、清太郎さんには藤原家を継がせる跡継ぎが出来ないんだからな。」
「それは…。」
「わかってる。俺だって相当な覚悟して藤原家の跡継ぎになるって決めたんだ。だから…、もう少しくらい認めて欲しいとか思っちまう。」
学校では見せない曽我の本音。
優等生でリーダー的存在である曽我の愚痴を聞く人間は僕だけだ。
国松家の哀しみを知る曽我だから曽我は僕を親友だと言い本音をぶつけて来る。
その本音を受け止めてやれる余裕のない不器用な僕は苛立ちを感じる。
曽我に…。
自分に…。
幼過ぎる2人の関係には焦りと苛立ちしか成り立たない。
曽我の言葉をこれ以上は聞きたくないと黙って食事を済ませると
「街に出てみないか?」
と曽我が言う。
「街に?」
「せっかくだから京都観光?国松なら京都なんか何度も来てるだろうけど、遊びにでも行こうぜ。」
退屈しない為の曽我の親切な誘い。