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不器用な夫
第13章 食事
頬に涙が蔦う。
「清…太郎さんっ…。」
心が乱れ、昔、僕を愛してくれると約束してくれた人に縋りつく。
『落ち着きなさい…。』
優しく窘める声…。
ボロボロと泣きながら携帯を握り締める。
『大丈夫だ。君の傍に居てやれないのが辛いよ。今は僕が傍に行く事は望ましくないからね。』
落ち着きだけを促される。
そう…。
今、清太郎さんに会えば国松家の呪いから逃げ出したいだけの僕は肉欲だけに溺れる。
僕はハコだけを愛すると決めたのだ。
『奥様は…、どんな方かな?』
「まだ…、若くて…、恥ずかしいくらいに若くて…、可愛い妻です。」
『その奥様が今はとても大切な存在なんだね。君はやっぱり優しい子だ。』
懐かしそうに清太郎が言う。
萎む心がゆっくりと開かれる。
春の陽射しの暖かみを感じて僕の心が穏やかになる。
ハコの為に泣く僕を清太郎が理解してくれる。
『焦る必要はない。ただ国松家の男の性欲が高まるのは30代の始めからなんだ。君はその高まりに流されて焦りを感じてる。』
「はい…。」
『奥様はまだお若い…。妊娠そのものは学校を卒業してからでも遅くはない。』
「はい…。」
それは教師である僕が嫌という程に理解をしてる。
『それまでは2人で充分に愛を育みなさい…。どんな苦難も困難にも屈しない愛を…。』
「清太郎さん…。」
『君になら出来る。頑張りなさい。』
「はい…。」
携帯を切る。
中途半端な気持ちでハコを京都に連れては行けないとだけは理解した。
充分にお互いが愛というやつを信頼した上でイかせ屋に依頼しなければならない。
それほどまでに京都に頼る事はハコを傷付ける可能性がある。