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不器用な夫
第14章 捻挫
その疑いは僕の運転能力に対するものではなく、果歩を自宅まで送るという事実に対するものだ。
執事や運転手の送り迎えが当たり前のお嬢様学校。
稀に自力で電車やバスに乗り通学する子も居るが、怪我などをすれば家族の誰かが迎えに来る。
三浦家では、それすら出来なくなったと無言の果歩から伝わって来る。
「三浦君まで僕の運転にはご不満ですか?」
わざと膨れっ面で聞いてやる。
「そんな事は…。」
泣きそうな顔で果歩が首を振る。
「嫌なら今のうちに言いなさい。車に乗ってからでは僕に文句を聞いてあげる余裕はないよ。」
今は冗談でも言わなければ気丈な果歩が泣き出すと思った。
苦味を潰したような微妙な笑顔を果歩がする。
「国松先生、車の手配はしましたから…。」
新巻先生の声がする。
新巻先生が果歩を支えて車椅子に乗せ、僕と果歩と新巻先生の3人で校舎を出る。
「くれぐれも…。」
新巻先生が僕の鼻先に車の鍵をチラつかせてしつこく念を押す。
「事故だけはしませんから…。」
新巻先生から車の鍵をひったくる。
果歩を助手席に乗せたらナビに果歩の自宅の住所を登録を済ませ車はのんびりと学校を出る。
「先生って…、超安全運転派?」
ハコと同じような事を果歩が言う。
「これは学校の車ですからね。事故は絶対に出来ないんです。」
子供に本音を聞く時は自分も子供になるべきだ。
僕の態度にクスクスと果歩が笑う。
笑ってから果歩が
「うちの両親…、離婚が決まったんです。」
と呟いた。
果歩は母親方の実家に引き取られる。
今朝、果歩が僕に伝えたかった言葉を拒否した事を教師として悔やむ。