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不器用な夫
第18章 学生
但し、果歩の知識の中に国松の特異体質についての秘密は含まれない。
この秘密を知る一族は藤原家だけだ。
だから父が緒方について僕に聞いて来る事自体が不思議な質問としか言いようがない。
「緒方ですか?」
「ああ、三浦ではなく緒方だ。」
「多少は…。」
と答えるしか出来ない。
父が屈辱を受けたような顔をする。
「父さん…?」
「その緒方だがな。何故かお前が受け持つ娘を国松に差し出したいと申し出が来た。」
「三浦君をですか?」
驚きしか出て来ない。
「ああ、しかもお前が既に妻帯者だと知ってた上での申し出だ。」
父が僕を睨む。
国松の婚姻は外部に漏らさないルール。
それを迂闊に僕が破ったと父が怒りを見せている。
「申し訳ありません。」
学生だからと果歩を甘く見た僕の過ちである。
「構わん。緒方は愛人としての契約をこちらに提示して来たのだ。」
「愛人ですか!?」
まだ若き少女を愛人にと申し出る名家の逸脱した考え方に僕の常識が反発する。
「緒方は三浦に対して随分と投資をしたからな。時代が時代だから不良債権が増えた状況をどうにかしたいと焦りがあるのだろう。」
経済学者としての父の意見と見解を述べる。
この考え方が国松が他家を拒否する一番の理由だ。
家同士の婚姻を繰り返し、その家をより大きく強力なものにする。
そこで犠牲になるのは必ず女性だ。
国松の婚姻は女性には残酷な婚姻だからと婚姻の事実は伏せられる。
子を成し国松の母となり初めてその実家は国松の恩恵を受ける事になる。
名家同士が利害関係を一致させる婚姻を国松が嫌う理由はそこにある。
国松の力を利用されてはならない。
その国松のしきたりに反した緒方の申し出に父が顔を歪める。