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不器用な夫
第19章 誠意



採点は1枚も進んでない。

僕はハコが待つ家に早く帰りたいから残業はお断りだと考える。

ハコと結婚した現在、自宅に答案用紙を持って帰る事も許されない。


「森下先生…、申し訳ないけど…、1人にして貰えませんか?」


僕の言葉に森下先生が目を見開く。


「そんなにご迷惑ですか?」


まだ居座るつもりの森下先生に僕は妻帯者だと言って追い払いたいと願う。

だが国松の婚姻を公表は出来ない。

迂闊に果歩に公表して痛い目をみた。


「迷惑とかじゃないんです。僕…、不器用なので1人にならないと採点が終わらないんですよ。」


僕の不器用はもはや学校中で有名だ。


「わかりました。でも、何かあれば直ぐに私を呼んで下さいね。」


最後の最後まで僕の手を握り力説する森下先生にどっと疲れが出た。

森下先生もお嬢様だ。

全てのお嬢様がそうだとは思わないが、自己中心的で人の気持ちを推し量るという部分が鈍いと感じる子が多いのも事実だ。

僕もそういう部分は鈍い方だと自覚がある。

それゆえにハコの気持ちがわかる時などは一喜一憂してしまう。

僕の帰りが遅くなればハコにまた余計な心配をさせる事になると思う。

定時までに帰る。

それを目標に仕事をする。

昼休みすら取らずに仕事をしたお陰で予定よりも早く学校を出る事が出来た。


「先生…。」


正門を出たところでそんな声がする。


「三浦君…。」


お次は果歩かとうんざりする。

それは表情に出てたのだろう。


「なんか嫌なものを見たみたいな顔はやめて貰えませんか?」


そう言って果歩が膨れっ面をする。


「テスト期間中の寄り道は禁止だよ。」


教師として、この時間に果歩が学校付近をウロウロしている事実を嗜める。


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