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不器用な夫
第19章 誠意
果歩が僕の腕を撫でるように触れて来る。
それを振り払い果歩を拒否する姿勢を示す。
「先生って…、本当に冷たい人…。」
果歩がくすくすと笑う。
「さっさと帰りなさい。」
「ええ、帰ります。でも先生にはこれを…。」
果歩が何かを僕のジャケットのポケットに滑り込ませて来る。
「これは?」
ポケットの中身を確認した。
どこかの部屋の鍵だ。
「私の部屋の鍵です。わざわざ引越したんですよ。先生の為に…。」
果歩がまた僕の腕に触れて来る。
学校付近でベタベタされても迷惑だ。
再び果歩を振り払い
「僕の為?」
と問い質す。
「緒方から、もうお話は行ってますよね?その為に必要なものを用意して頂きました。先生と2人だけで会える場所が欲しいと…。」
愛人の話…。
果歩が嬉しそうに話す。
まだ16の少女が日陰の立場である愛人になる話がそんなに嬉しいのか?
果歩から感じる苛立ちに歯軋りをする。
「そんな部屋は必要ない。」
果歩にははっきりと愛人などお断りだという態度を貫くつもりだ。
1人で喜ぶ果歩に背を向けて公平が待つ場所に向かって歩き出す。
「私には必要なんです…。」
背中越しに果歩の声がする。
僕には関係ない。
名家の問題に他家は首を挟まない。
教師として果歩を救ってやれる部分は限られてる。
可哀想だが果歩の望みを聞いてやる事は出来ずに僕は公平が運転する車に乗り込んだ。
「ハコは?」
「奥方様なら、早めに帰宅されて明日の古典の勉強をすると張り切ってらしたよ。」
「そうか…。」
「少し遅れたから急ぎます。」
公平がいつもよりも車のスピードを上げる。