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不器用な夫
第20章 秘密
「奥方様に何か?」
「わからない…。」
「わからないって…。」
やはり公平が呆れた顔をする。
ダメな夫は愛する妻が泣きそうな顔をしても何もしてやれず、その理由すらわからない。
「急いでくれるか?」
「御意…。」
公平がアクセルを踏み込む。
僕の為なら、なんでも無茶をしてくれる公平。
「なあ、公平…。」
「はい、坊っちゃま。」
「ハコを藤原家に…。」
「連れて行くのですか?」
「連れて行かないと無理そうだ。」
「御意…。」
公平も母が藤原家で傷付いた事実を理解はしてる。
だから僕がハコに対して躊躇う理由を一番理解してくれてる。
「坊っちゃまなら大丈夫です。」
公平の根拠のない言葉に安心する。
公平がそう言った時だけは不器用な僕でも失敗をした事がないからだ。
「だと…、いいが…。」
そう答えた時には車がマンションの前で停まる。
「何かあればお呼び下さい。」
車から降りた僕に公平が言う。
僕が呼ばない限り今日の公平は部屋に来ない。
ハコと2人だけの時間を公平がくれる。
僕はその貴重な時間を使いハコと話をしなければならない。
国松の秘密を…。
呪われた身体を…。
そしてハコが僕の妻として揺るぎない立場を求めるのなら藤原家に行き屈辱を味わうのだと…。
いつものように玄関を開ければやはり玄関先に踞る少女が居る。
まだ着替えすらせずにセーラー服姿のまま膝を抱えて顔を伏せる少女に呼び掛ける。
「ハコ…、ただいま…。」
いつもならハコが僕に手を伸ばす。
今日のハコは僕の声が聞こえないみたいに顔を伏せたままだ。