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不器用な夫
第3章 学校
その理事長の呼び出しに他の教員ならば何があったのかと興味を示す対象になるが僕の場合は誰からも見向きされない。
そうやって自分が地味な存在に成り下がる事に慣れていく。
要するに国松家とは艶やかで華やかな名家の中でも決して表に出る事がない影のような存在だから僕は目立たず地味な男として常に振る舞う。
「失礼致します。」
理事長室の扉をノックしてから中へと滑り込む。
「やぁ、国松先生。」
父の同級生だった早乙女理事長が僕に笑顔を見せる。
「お呼びと聞きました。」
呼ばれた理由は1つ。
「ご結婚、おめでとうございます。」
理事長は顔色1つ変えずに僕にそう言う。
「ありがとうございます。」
僕も静かに礼を尽くす。
「要件はそれだけなんですよ。」
照れたように理事長が頭をポリポリと掻きながら僕に苦笑いを見せる。
上司として、父の友人として僕に祝いの言葉を伝えたかっただけだ。
「でも、気が早いかもしれませんよ。」
僕は苦笑いをする理事長に苦笑いで言葉を返す。
「国松家の婚姻は何かと複雑ですからね。茅野さんはどうですか?」
「茅野君は頑張ってますよ。」
「どうかお幸せに…。」
「ありがとうございます。」
在り来りな祝いの挨拶に見える会話を済ませて僕は理事長室を退室する。
この会話が外に漏れる事はない。
それは僕を守る為とハコを守る意味がある。
僕とハコは正式に婚姻をした事になってはいる。
その事実は決して世間に公表される事がない。
それが国松家の婚姻である。
国の財政そのものを支える国松の一族にはあくまでも存続をする為の嫡子が重要であり、嫡子誕生までの過程は些細な事として扱われる。